映画に学べ

和泉歳三

大分の映像制作・モデルタレント事務所CINEMASCOPE代表。
映像ディレクター/ご当地アイドルSPATIOプロデューサー。
「映画ヲタク歴」と「アイドルヲタク歴」は40年以上の筋金入りの「ヲタク」。
九州一のマイナー県・大分の地から全国に向けて「映画愛」「アイドル愛」配信中。

『ウォルト・ディズニーの約束〜クリエイター達の産みの苦しみ〜』

第99回

2014.6.15更新


「ウォルト・ディズニーの約束」

名作「メリーポピンズ」誕生までの苦悩を描いた誕生秘話もの。
ディズニー役をトム・ハンクスが演じる。
ウォルト・ディズニーは娘が愛読している児童文学「メリー・ポピンズ」の映画化を熱望し、原作者パメラ・トラバースに打診するが、トラバースは首を縦に振らない。
やがてイギリスからハリウッドへやってきたトラバースは、映画の製作者たちが提案する脚本のアイデアをことごとく却下。
なぜトラバースは「メリー・ポピンズ」を頑なに守ろうとするのか。
その答えが、幼い頃の彼女と父親との関係にあると知ったディズニーは、映画化実現の最後のチャンスをかけ、トラバースにある約束をする。

ヒッチコックの「サイコ」誕生秘話と同じく、期待してみた1本。
クリエイターの苦悩、産みの苦しみが見事に描かれている。
ここまで無理難題を吹っかける頑固な原作者だと、普通はとっくに投げ出すだろう。
極めつけは「映画の中で赤の色を使うな。」
それをウォルトは、我慢に我慢を重ね、ついには試写会で原作者に涙を流させる名作を完成させる。

何かを創造する作業には、常に様々な困難が立ちはだかる。
自分一人で好き勝手に創造している分には、すべて自分の判断だけで済むだろうが、他者と関わり集団で創造しようと思えば必ず、様々な摩擦や衝突が生まれ、それが創造を妨げる。
その過程で疲弊し何度も投げ出したいと思うこともある。
そこで投げ出してしまえば、それで終わり。その「創造」が陽の目を見ることはない。
投げ出さずに、苦労に苦労を重ね、命を削るようにして完成した「創造」が必ずしも最高の出来になるわけでもない。それでも完成させようというのがクリエイターの「性」であろう。
一度完成の喜びを知ってしまったら抜け出せないのがクリエイティブの世界なのだ。
これはクリエイターとして大いに勉強になる映画だった。