映画に学べ

和泉歳三

大分の映像制作・モデルタレント事務所CINEMASCOPE代表。
映像ディレクター/ご当地アイドルSPATIOプロデューサー。
「映画ヲタク歴」と「アイドルヲタク歴」は40年以上の筋金入りの「ヲタク」。
九州一のマイナー県・大分の地から全国に向けて「映画愛」「アイドル愛」配信中。

東京家族~60年後の東京物語/普遍的な家族のあり方~

第88回

2013.04.15更新

1953年公開の「東京物語」は、英国映画協会の史上最高の映画ベスト10の第1位に輝いた、世界が認める名匠・小津安二郎監督の代表作だ。
なんと映画史上ベスト1が日本映画だとは。
しかも世界の黒澤作品ではなく、純日本映画ともいうべき小津作品だとは。
これは日本の典型的な家族の姿を描きながら、それが国境を越えた、普遍的な世界のスタンダードでもあったということを証明している。

そして60年後の今、小津の正統な後継者と言える山田洋次監督が、この映画のテーマが時代をも超越することを証明してみせた。それが現在公開中の「東京家族」である。

設定は同じ。老夫婦(橋爪功/吉行和子)が瀬戸内海の小島から、東京で暮らす子どもたちを訪ねるところから始まる。
開業医の長男(西村雅彦)は妻(夏川結衣)と高校生、小学生の4人家族。
次女(中島朋子)は美容室を経営。旦那(林家正蔵)は居るが子どもはない。
次男(妻夫木聡)は、舞台美術の仕事をしているその日暮らしのフリーター。

最初は両親の訪問を歓迎する子どもたちだったが、やがて疎ましく感じるようになり、横浜の高級ホテルを奮発して、泊まってもらうことに。
居心地の悪さを感じた夫婦は、2泊の予定を切り上げ帰って来てしまう。
それぞれの事情で家に泊められない長男と長女宅。
仕方なく、父は東京に住む同級生を訪ね、母は次男のアパートに泊まる。
田舎暮らしの老夫婦と、都会暮らしの仕事に追われる子どもたちの間に生じる溝。

せめてもの救いは、次男が母に紹介した、結婚を約束した彼女(蒼井優)の存在だった。その娘を「感じのいい人」と大層気に入った母は、これで安心だと胸をなで下ろす。
上機嫌で、長男の家に帰って来た母だったが、急に倒れ、突然還らぬ人となってしまう。

葬式のため、故郷の小島に帰る家族たち。残された父に東京で一緒に暮らすことを提案する長男だったが、父は「東京には住みくない」と拒む。
葬式が終わると、仕事があるからと早々に帰ってしまう、長男長女。
残ったのは、父と最もそりの合わなかった次男とその彼女。
数日が経ち、暇を告げる彼女に、重い口を開く父。
2人の行く末を思い、「大変な時代だが、がんばりなさい。」と励ます。

この2人のシーンが、オリジナル「東京物語」の笠智衆と戦死した次男の嫁・原節子のシーンとダブる。なんと原節子の役回りを蒼井優に演じさせて、蒼井優が見事に爽やかに演じきっている。

「東京物語」は、1人残された父の淋しいその後を予見させて終わるが、「東京家族」では、これから結婚して家族を持とうとする次男とその彼女を「希望の光」として描き、震災後の日本の希望は、やはり「家族」なのだと訴える。
「家族の崩壊」は「日本の崩壊」、「家族の再生」こそが「日本の再生」なのだ。

この物語は、誰もが、どこかに自分を重ね合わせることが出来る物語だ。
何気ない日常会話を丹念に描く山田洋次監督ならではの「珠玉の日常会話」の数々。
それらを聞いているだけで、何故か懐かしく、清々しい気分になってくる。

そして、依然としてある「東京」と「地方」の価値観、生活観の違いが、抜き差しならないところまで来ていることに気付かされる。
ある映画の中でのセリフ。「才能のある人間はみんな東京に行ってしまって、この街にいるのは残りカスばっかりや。」
こんなことで、地方の時代など来るはずもない。
いい加減、東京一極集中をやめなければ。

酒に酔った父が吐く「この国はもうダメじゃ。」というセリフ。
何がどうダメなのか、胸に手を当ててよく考えてみなければ。

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