映画に学べ

和泉歳三

大分の映像制作・モデルタレント事務所CINEMASCOPE代表。
映像ディレクター/ご当地アイドルSPATIOプロデューサー。
「映画ヲタク歴」と「アイドルヲタク歴」は40年以上の筋金入りの「ヲタク」。
九州一のマイナー県・大分の地から全国に向けて「映画愛」「アイドル愛」配信中。

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「桐島、部活やめるってよ〜高校と言う格差社会のリアル〜」

第86回

2013.02.15更新

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評判通りの傑作だった。
「桐島」は、スポーツ万能、誰もがうらやむバレー部のキャプテン。その「桐島」が部活をやめたらしい。
しかし映画の中に一向に「桐島」は姿を現さない。
現れない「桐島」を巡って、一件無関係に見える周りの登場人物たちが、微妙に絡み始め、やがて大団円を迎える。

これはサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』だと思った。『ゴドーを待ちながら』が表題にゴドーの名を謳いながら遂にゴドーはやって来ないように、『桐島、部活やめるってよ』も桐島を巡る物語でありながら、ついに「桐島」は現れない。

「桐島」が部活をやめると聞いて、波紋のように広がって行く「不安」。それは高校という社会の中のあらゆる「階級」の生徒に影響を及ぼす。
キャプテンに頼りきりだったことを思い知らされてうろたえるバレー部員たち。
ひたすら待ち続ける彼女は、恋人の決断を全く聞かされなかったことを知り悩む。
仲良しグループから外されることを恐れて懸命に話を合わせている女子。
嘲笑されながらも映画に情熱を燃やす映画部のオタク男子。
何をしたいのかわからない帰宅部の男子達。

ここには大人の社会と同じ「格差社会」がある。
そして上層に位置する、非の打ち所のない男子・女子にも、蔑まれる下層のオタク達にも、等しく鬱積した悩みや不安がある。
そのモヤモヤを解消してくれる存在が「桐島」であるかのように、誰もが「桐島」を追い求めるが、ついに「桐島」は姿を現さず、不安やいらいらが広がって行き、やがて溜まりに溜まって、大爆発する。

高校2年という時代は微妙な時代だ。小学生の頃のように、野球選手や芸能人などを夢見る時代は過ぎ、そろそろ公務員や教師等現実が見え始める。少しずつ何かをあきらめ始める。それが大人になるということか。
今、大人な自分たちも思い返せば、ここが一つの「分岐点」だったことに気づくはずだ。

「出来る奴はなにをやっても出来る。出来ない奴はなにをやっても出来ない。」というセリフが出てくる。
高校生にして悟る「格差社会」。これが今の高校生のリアルなのだろう。

そして「桐島」は、自分の中にしかいない存在で、「桐島」に頼るのも、突き放すのも、自分自身なのだと気づく。

映画のエンディングに、高橋優の『陽はまた昇る』だが流れる。この曲は、まさにこの映画のテーマを、観客が感じる心の叫びを代弁してくれる。

  選ばれし才能も お金も地位も名誉も
  持っていたっていなくたって 同じ空の下
  愛しき人よ ほら見渡してみて
  尊い今というときを 陽はまた昇るさ


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