「終戦のエンペラー~戦後最大のタブーとは?~」
第94回
何故今、この映画がハリウッドで作られたのか?
プロデューサーが日本人の奈良橋陽子さんだからというのもあるだろう。
日本ではとても映画化出来ない、戦後最大のタブー「天皇の戦争責任」を真っ向から取り上げている。日本映画でかつてこのタブーに踏み込んだ映画はなかった。
日本が降伏をして、マッカーサー最高司令官が厚木基地に降り立つシーンからこの映画は始まる。
マッカーサーの任務は日本を占領統治することである。
そのためには、まず戦争責任者たちを逮捕して連合国の裁判で裁かなければならない。その戦犯裁判に昭和天皇をかけるべきかどうか。天皇に戦争責任があるのかないのか?
マッカーサーは、ボナー・フェラーズ准将に、その調査を命じる。
そしてフェラーズが、東条英機、近衛文麿、木戸幸一たちキーパーソンに直接あたって、天皇の戦争責任を問い、裁判にかけるべきかどうかを確かめる。その結果、フェラーズが辿り着いた結論とは?
近衛文麿が語る本音「インドもマレーシアもフィリピンも、イギリスがフランスがアメリカが植民地化して来た。我々日本人もそれを手本に同じことをしたのに、なぜ我々だけが責められねばならないのか。天皇の戦争責任も白か黒かを問うような問題ではない。」
日米開戦前夜の御前会議で昭和天皇が詠んだと言われる短歌『四方の海 みな同胞と思う世に など波風の立ちさわぐらん』
結局、昭和天皇の戦争責任は問わず、天皇制も続けるべきだと考える。日本人がいかに天皇に深い思いを抱いているかを知り、天皇なしでは日本が大混乱して占領政策がまっとう出来ないと判断したからだ。
フェラーズの報告を聞いたマッカーサーは、自分が天皇と直接会って話して決断することにする。そして歴史に残る昭和天皇とマッカーサーの、あまりにも有名な場面が、この映画のクライマックスとして、異常な緊張感の中展開される。そこで語られた天皇陛下の衝撃の言葉とは。
「風立ちぬ」もそうだし、おそらく「少年H」もそうだろうが、この映画のメッセージも「日本人としての誇りを取り戻そう」だと思う。
東日本大震災という未曾有の災害に遭って、日本人が取った節度ある行動が世界を驚嘆させたことが、今「日本人としての誇りを取り戻そう」のきっかけになったと思う。私たち日本人は誇りある国民だという自信を持とう。その象徴であり、心の拠り所がこの当時の昭和天皇だったのだ。
では今の日本人にとって、いやあなたにとって、天皇陛下とは?
あとはなぜこれがハリウッド映画なのか?
その答えは、田原総一郎氏と名良橋プロデューサーの対談の中にあった。
力のこもった労作である。奈良橋さんは「アメリカは、日本以外の国では韓国、ベトナム、アフガン、イラクと全て占領政策に失敗していて、成功したのは日本だけ。そのことを殆どのアメリカ人は知らない。だから、なぜ日本では成功したのかということをアメリカ人に知ってほしかった」と語った。その言葉で、私は、あらためて、彼女があえてアメリカ映画にした意図が理解できた。
なるほど、それがアメリカ側へのメッセージだったのか。