映画に学べ

和泉歳三

大分の映像制作・モデルタレント事務所CINEMASCOPE代表。
映像ディレクター/ご当地アイドルSPATIOプロデューサー。
「映画ヲタク歴」と「アイドルヲタク歴」は40年以上の筋金入りの「ヲタク」。
九州一のマイナー県・大分の地から全国に向けて「映画愛」「アイドル愛」配信中。

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「小さいおうち~昭和の記憶~」

第97回

2014.2.15更新

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第143回直木賞を受賞した中島京子の小説を、名匠・山田洋次が実写化した「小さいおうち」を観た。

大学生の健史(妻夫木聡)の親類であった、老婆タキ(倍賞千恵子)が残した大学ノート。それは晩年の彼女がつづっていた自叙伝
だった。

昭和11年、田舎から出てきた若き日のタキ(黒木華)は、東京の外れに
建つ赤い三角屋根の小さくてモダンな小さいおうち、平井家の女中として働く。そこには、主人である雅樹(片岡孝太郎)と美しい年下の妻・時子(松たか子)、二人の間に生まれた男の子が暮らしていた。日中戦争が泥沼化していく中にも、平穏な彼らの生活を見つめていたタキだが、夫の会社の板倉(吉岡秀隆)という青年に時子の心が揺れていることに気付く。やがて戦局は厳しさを増し、ついに板倉の元にも召集令状が来る。

タキの死後、遺品の中から開封されてない一通の手紙を見つける健史。そこにはタキが墓場まで持っていこうとした、ある小さな秘密があった。

相変わらず、家族の何気ない日々の営みを描かせたら、右に出るもののいない「家族映画の巨匠」山田洋次監督らしく、生活のディティールの描き方は見事だ。何でもないシーンだが、夏の昼下がりにカルピスを作るシーンがある。それだけで、昭和の夏の定番はカルピスだったなと思い出させてくれる。それだけなのに、当時の生活が鮮やかに甦ってくる。
住み込みの女中さんというのも、我が家にもいたが、そんなにお金持ちの家でなくても、普通にいた時代だ。
昭和モダンの建築様式を徹底再現した、舞台となる「小さいおうち」のセットにも目を見張る。
ディティールを見ているだけで、一気にタイムスリップ出来る。
自分が生まれた昭和30年代は戦後10年以上経ってはいたが、まだ戦争の名残があった。防空壕の穴は至る所に残っていたし、戦記漫画も昭和40年ぐらいまであった。パチンコ屋のあおり曲は軍艦マーチだった。もちろん戦渦を免れた我が家は戦前から建っていた家だ。
もちろん戦時中の過酷な生活は知る由もないし、その後昭和40年以降、高度経済成長の波に乗り、暮らしはどんどん豊かになっていくが、戦後ようやく戦前の平穏な暮らしぶりに戻って
いった昭和30年代は戦前の暮らしに近かったのではないだろうか?
これは偶然かもしれないが、去年から今年にかけて作られた「風立ちぬ」「永遠の0」そしてこの「小さいおうち」の3本がどれも戦前、戦中、戦後の激動の昭和を生きた人々の物語なのだ。
そして、どれもが声高に反戦を訴えているものではない。
たまたまその時代を生きなければいけなかった日本人の逞しさ、慎ましさ、凛々しさ、生への執念。生きる覚悟と死ぬ覚悟。
平成の日本人に、もう一度そんな日本人の生き様、素晴らしさを見直し、そこから生きる勇気を学んで欲しいと、訴えかけているような気がしてならない。