枯れない無花果〜閉ざしてしまった篭

(ren)

『枯れない無花果(いちじく)~閉ざしてしまった篭』。
『手紙的小説』と言えばいいのか?この作品に出逢った時に衝撃が走りました。
荒削りの作品ではありますが、著者の『泥』や『毒』が文字一つ一つの『言の葉』に詰まっています。

【心眼】

第 9回

2014.7.15更新

【心眼】

保育園で迎えた二度目の夏、プールの時間がありました。

石で枠組みされた、浅い二畳ほどのプールに、
下着のパンツ一枚で、二十人ほどが入りました。

「はーい!みんな、しゃがんでー」

先生の合図で、皆が水の中にお尻を浸けます。
きゃーきゃーと、はしゃぐ声。
初めて入るプールに、私も少し胸を躍らせながら、
一番手前の端っこにしゃがんで、
冷んやりとした水の感触を楽しんでいました。

突然、顔と耳の中にゴーっと音がして、私は息ができなくなりました。
プールの右側と左側から、先生がホースで子供達に水をかけだしたのです。
驚いて先生を見ると、反応を楽しむように、
二人の先生は声を出して笑いながら、
更に子供達の顔をめがけて水を向けました。
私は水を飲んで、むせながら、目の前にいる先生を見ました。
冷酷な笑い顔を目の当たりにして、お腹に熱い力が入りました。
怒りとも、悲しみともいえるような[反抗心]を、
私は、この時初めて自分の中に意識しました。
プールの中は、はしゃぐ子供やら、泣く子供やら、様々でしたが、
私は何も言わず、じっと先生の顔を見据えていました。
私の視線に気づいたのか、目が合いました。
どんなに水をかけても微動駄にしない私に、
先生は上下にホースを振って全身めがけ水をかけながら

「○○な子」

そう言って笑い顔が消えました。

理不尽な大人に対して、対抗する手段があることを、
ただ泣くことだけが抵抗ではないことを、
消えた冷酷な笑顔から知りました。
そしてこの時から、
水と冷酷な笑顔が一つに重なるようになりました。
気管に容赦なく入ってくる水の苦しさと、
大人の笑顔の裏にある冷酷な相貌が、同じ物になりました。
私はこの日から、無意識にプールと大人を同時に拒否しました。