枯れない無花果〜閉ざしてしまった篭

(ren)

『枯れない無花果(いちじく)~閉ざしてしまった篭』。
『手紙的小説』と言えばいいのか?この作品に出逢った時に衝撃が走りました。
荒削りの作品ではありますが、著者の『泥』や『毒』が文字一つ一つの『言の葉』に詰まっています。

ren-top.jpg

縁 因

第1回

2013.10.15更新

no.1a.jpg

 
青い竹で飾りをつけた嫁入り道具一式が、大きなトラックに積まれ、黒塗りのハイヤーが戸口をふさぐように停まっている。
春だというのに、澄んだ空気と青く高い空が。雨上がりの秋のような澄んだ朝。
葵は、住みなれた屋内を、ゆっくりと見渡し、一呼吸して立ち上がり、白無垢の裾を捌きながら玄関に向かった。
土間に揃えてあった草履を、葵の母は、上り口の上にのせ、
「ここで履いてから降りなさい。」と、膝をつき、葵の足を草履に乗せた。
母の肩に手を添え、何も言わず足を入れた。
土間に降りると、ハイヤーがドアを開けて待っているのが見えた。
見送りに来ていた近所の人たちから祝福の言葉を受け、角隠しに気を配りながら乗り込むと、茶碗を割る音が聞こえた。

やっとこの家から解放される。
そしてもう、戻らない。

トラック上の道具一式を、父はどうやって揃えたのだろう。母は常に病に臥せていたし、H電車の線路整備をしていた父は、8人の兄弟姉妹を喰わせるだけで、余裕なんてあるはずもなかった。三男の弟は肺炎で小学校に上がる前の冬に亡くなった。医者に診せることができていたら、今も此処で正装して立っているはずだ。
新郎側からの結納もなかった。
父は何も言わなかったが、葵が8歳の時に骨髄炎を発病した時、貧困で発見が遅くなり、一度は足の付け根から切断を宣告されたことや、左足に四〇センチ以上の深く白い傷痕を残したこと、手術と治療で何年も入退院をくり返していた間、両親ともが、一度も病院へ
訪れなかったこと、完治するまで一五年の年月を費やさなければならなかったことを、負い目に感じていたのか、父は、充分過ぎる家財を揃えてくれた。
かなり無理をさせてしまった。父に良く似た勤勉で真面目な兄は、一五歳で就職し、家をでて結婚した。姉は、父にも母にも似ていない破天荒な性格で、唯一この家を荒らせる人である。その姉も結婚して家を出た。病に臥せがちだった母の代わりを担っていた葵は、常に家族の行動や願いに敏感に反応し、想いに先回りをして、皆が困ることのないように意識を向けていた。次女の葵の下には、まだ十代の弟がふたり、妹、末っ子の弟はまだ幼い。これからが大変なのに。
車の中で、葵は、家族の今後の生活のことばかり考えていた。

BACK NO.