枯れない無花果〜閉ざしてしまった篭

(ren)

『枯れない無花果(いちじく)~閉ざしてしまった篭』。
『手紙的小説』と言えばいいのか?この作品に出逢った時に衝撃が走りました。
荒削りの作品ではありますが、著者の『泥』や『毒』が文字一つ一つの『言の葉』に詰まっています。

水 密

第 6回

2014.3.15更新


長屋へ戻ってから、また緊張した日々が続きました。
そして、私は眠らない子になっていました。

どんなに眠そうにムズがっていても、母の腕の中でなければ眠れませんでした。
父はまだ働こうとせず、家にも帰らない日がありました。
生後8ヶ月で、私をS保育園に入れ、母はまた機織りの仕事に出ました。
しかし、保育園にあずけられている間、
私はずっと火が点いたように泣き続け、喉を痛めるほどでした。
保母さんが四苦八苦してあやしても、毎日、声がかすれるくらい泣き続けました。
不憫に思った母は、約1ヶ月間で、
私を保育園から退園させ、仕事を辞めました。

家に居ても、母の姿が見えないと泣きました。
布団に寝かせると起きて泣くので、
母は、私を一晩中抱きながら眠らせてくれました。
抱きながら母も眠ってしまい、2・3度、私を転がり落としたこともあったそうです。

誰もいない昼間は、母とふたり穏やかに過ごせましたが、
夕刻になると、仕事から帰った祖母は、
まず私達を遮断するために、部屋を仕切るガラス戸を閉め、カーテンを閉めます。
窓のない私の部屋は光を失い、緊張が始まります。
私を泣かさないように、母は神経を張り巡らせます。
その緊張を察知し、私も緊張します。
大人達の顔色を読み、声や空気で状況を感じました。
私の存在は、母と家族達との仲を、悪化させ、祖母との間の亀裂をいっそう深くしました。近所の人達は、私をとても可愛がってくれていたので、
近所の人たちが私を見に来てくれると、祖母も父も一緒に、頬や頭を撫で、
抱き上げてくれました。
それでも、母以外の人達を、私は誰一人、信用してはいませんでした。

二歳を過ぎて、おむつが取れかけた頃、
生活がどうにもまわらなくなり、母は、また仕事に就くため、
前回とは違うR保育園に私をあずけました。
そこでも私は、ずっと泣き続け、先生達を手こずらせました。