映画に学べ

和泉歳三

大分の映像制作・モデルタレント事務所CINEMASCOPE代表。
映像ディレクター/ご当地アイドルSPATIOプロデューサー。
「映画ヲタク歴」と「アイドルヲタク歴」は40年以上の筋金入りの「ヲタク」。
九州一のマイナー県・大分の地から全国に向けて「映画愛」「アイドル愛」配信中。

風立ちぬ~世界に誇るべき日本の技術~

第93回

2013.09.15更新

「風立ちぬ」

ゼロ戦設計者として知られる堀越二郎と、同時代に生きた文学者・堀辰雄の人生をモデルに生み出された主人公の青年技師・二郎が、関東大震災や経済不況に見舞われ、やがて戦争へと突入していく1920年代という時代にいかに生きたか、その半生を描く。

これをいわゆる「宮崎アニメ」として見たら不満が残るだろう。
なぜならアニメーションらしい表現やファンタジーの要素がほとんど封印されているからだ。
これをアニメーションにする必要があったのか?
これは宮崎駿のプライベートフィルムではないのか。

宮崎駿は、戦闘機好きの戦争嫌い。らしい。

それがそのままこの映画だ。

世界最強の戦闘機、零戦を設計した天才航空技師、堀越二郎の半生を
描きながら、決して戦争賛美でも反戦でもない、淡々と個人の生きた過程を描くのみである。

本来なら、世界最高の戦闘機を作った天才技師として、我々日本人が世界に誇るべき人物のはずなのに、戦後の自虐的史観がそれを許さない。
その零戦を駆り、勇猛果敢に闘った大空のサムライたちも、今は決して英雄視されることはない。

もちろんこの映画の中で、そんな戦闘シーンが描かれることも一切ない。
あるのはただ朽ち果てた零戦たちの死屍累々たる姿だけだ。

設計者である二郎がポツリとつぶやく一言。

「結局一機も帰ってきませんでした。」

このセリフにこの映画の真のテーマがある。

生きたくても生きられなかった当時の人々(英霊)への鎮魂。
「生きねば。」は、そんな人々のためにも、残された、生かされた自分たちが一生懸命に「生きねば。」なのだと思う。