お手持ちのスマホのアプリ同様、アップデートして頂きたい「うま味調味料」への認識

第1回

ラーメン屋をやっていると、やたらと冷たい視線を浴びる「ある調味料」の存在について、
作っている側であれば、深く考える機会が必ず一度はあると思う。
そこで、前々から公の場で語りたかった「うまみ調味料」のお話で、このコラムをスタートする。

(1)「化学?」調味料
複数の有名ブランドが「うまみ調味料」、以前は「化学調味料」というおどろおどろしい名称で呼ばれていた。
今でもその名称を使い続けている方がいるかもしれない。
個々の商標を放送で出さない様、某公共放送が作り出した単語らしいが、
「化学」という単語が入ることにより「便利だが、身体に悪いもの」「人体に害をなすもの」「機械化された工場で作った、人体に優しくないもの」という
誤った認識が広まるに至った。
そういった認識を推し進めた要因のひとつに「石油から出来ている極めて不自然、不健康なもの」という批判・非難があったが、
これについて、もっとも普及しているであろう「○の素」を例に説明する。

(2)うま味成分抽出史
前述の「○の素」は創業後しばらく、昆布を煮詰める、或いは小麦を加工するなどして、
うま味成分である「グルタミン酸」を作り出していたが、
生産出来る量と反比例して、手間と原価がかかり過ぎていた為、小売価格は現在のものよりも大変高価であった。
(現在で言えば、スーパーなどで数百円で販売されている一般的なサイズでさえ、数千円もしたらしい)

その後、需要の大幅な増加とともに、効率良く製造する為、「石油から取り出した有機物」から生成する方法を「50年以上前のほんの一時期」採用していた。
(後述の発酵を用いた製造方法でも、石油を使う製造方法でも、得られるものは全く同一の成分であり、安全性も確認されている。
ただ、50年以上前と言えば、「公害」が各地で起きるなど、高度成長の時代であった故に、
今では考えられない位、安全や環境に対する考え方が全く違った(現代の感覚であれば「疎か」)であろうからこそ、生み出された方法であると考える。
現代では考えられない手法であり、いくら安全であっても、印象が宜しくない事は言うまでもない。)

しかしほどなく、他社による発酵を用いた技術革新、および当該技術の導入により
石油由来の有機物を使う必要はなくなり、現在はサトウキビ、トウモロコシ、芋を原料とし、
それらを発酵させて製造されている「うま味」成分の凝縮体として、各家庭や食品関連業界に広く行き渡っている。


(3)「化学的事実」を知って、恐れや不安を取り除こう
前述の、製法の相違に関わらず同一のものが出来るという現象は、
自然界の「酸素」と、小学生の時に授業で作った「二酸化マンガン+過酸化水素水(オキシドール)」由来の「酸素」は別物ではなく、全く同じものであることと同義である。
製造過程や、原料から受ける印象は人それぞれ違うであろうし、好悪が生じる事も当たり前の反応であるが、
昔のほんの一時期を除いて、石油由来のものなど使っていないにも関わらず、かつ成分は同一、安全性も確認されているというのに、
過剰な恐れや不安、偏見を抱くのは、貴重なエネルギー(カロリー面でも気持ちの部分でも)の浪費である。



(4)30代以上の素朴な疑問「でもアレって、化調が原因なんちゃうの?」
以前「中華料理店症候群」という現象があった。
このコラムを書く前に、若い学生さんたちに「この現象を知っているか」質問してみたが、「知らない」との回答が大多数であった。
そのくらい、とっくの昔に消えてしまった言葉(現象)であるが、
30代以上の人であれば「ではあの現象はどう説明するのか、あんなに動悸や喉の渇きを覚えたりするのは
「化学調味料」が原因であり、怪しげな物質が入っているからこそ起こる反応だ」
との指摘がありそうだ。

これもうま味調味料(グルタミン酸など)そのものが原因ではない事は、各種研究で明らかになっている。

ただ、今ではそんな手抜きの味付けの店はほぼ存在しないが、
15~20年ほど前までは、うま味調味料を過剰使用する店で食事をした後は、確かに喉が渇いたし
お腹いっぱいになり過ぎた時とはまた違うタイプの「動悸」を感じた事も多々ある。

また「うま調」のみならず、醤油や塩、砂糖でも同様の事が起こる。
これも、今ではそのようなお店もほとんどなくなったが、塩味の効きすぎた店、甘みの効きすぎた店でも
似た様な事を、昔は時々経験した。

しかし、それももう過去の現象だと思っていたが、
最近また立て続けに「懐かしい体験」をしたのでお話をしたい。
自然志向の影響なのかどうかわからないが、この頃、ここ京都では塩や醤油ではなく、
みりん(みりん風調味料ではなく、とても高級・高価な本みりん)を活かした味付けの飲食店が増えている。
その中でも、みりんの風味が強すぎる店だと、食後「中華料理店症候群」のような状態になる。
※実際にこの半年ほどの間、数軒ほど食後に「喉が渇き、動悸が激しくなり、少し苦しい(且つ、少し懐かしい)」感覚を覚えた事がある。

このように、身体に優しい、負担が少ないと思われている調味料であっても、
味を効かせすぎると、食後に苦しく感じる事もある。


(5)保育園児でもわかる、単純な理由
要は、調味料の安全性がどうのこうの、という問題ではない。
全て「量の入れ過ぎ」が原因である。

たとえそれがビタミンであろうが水であろうが食物繊維であろうが、特定の成分の摂り過ぎは身体に毒となり、
実際に、世の中で食べられているものの大半には「致死量」が存在する。
過剰に摂取すれば、身体がそれに強く反応する事も当然であり、そしてそれは食材や調味料の成分や存在そのものが原因ではなく、
入れ過ぎる、或いは摂取し過ぎることに原因がある。

個々人それぞれに好き嫌いはあって当然であり、うま味調味料を使う使わない、好む好まない、摂取するしないも自由であるし、
未使用・未摂取と決めておられる方々を悪く思ったり、まして責めようなどと言う考えは全く無い。
が、未だに、週刊誌のいいかげんな記事や料理マンガで覚えた「知識」をもとに、
自説(「化調を摂取する事も、料理に使う店も悪だ!」)に賛同しない人や店へいちゃもんを付けたり、不健全のレッテルを貼る、行き過ぎた人もいる。
対極にある考え方に対して、根拠不十分のまま一方的に「悪い」イメージを流布したり、まして他人の考え方を非難するなど、不適切の極みであろう。


(6)今すぐアップデートしますか? →Y/N
10年前、スマホは一般的なもの、決して当たり前のものではなかったし、
「アプリ?ガジェット?何それ?」という状態の人が大多数であったが、
いまや小学生、保育園児でも動かし方がわかるくらい、爆発的に普及している。
一方で、昔広まってしまった誤った知識や情報・方法をそのまま「常識」として語り、
また自ら実践する様な事も、この世の中には存在する。(突き指したら引っ張る、等)
その一つが「うま味調味料」である。


日頃、特に若いお客様と会話する中で、教えられる事、常識を覆される事がとても多く、
またそれがもとで思わぬ効果・改善を得られた経験もあって、
スマホのOSやアプリのアップデート同様、人間は「常識」だと思い込んでいることについても、
違う視点から見たり、知識の更新・再学習が必要であると痛感する毎日である。


このコラムを読んで頂いた上で、摂取しない、使用しないとお決めになるにも全くの自由であるが、
味のバランス調整の為、ごく少量「うま味調味料」を使っている者としては
「正しくご理解・ご使用・ご賞味」頂ける方が増えれば、とても嬉しく思う。