うれしがり日記

GONG

リシーヴ魂隊の関西地区総長のGONGさんのコラム。『ヤマハ携帯サイト「ケータイクリエイターズ広場(Kクリ)」にて3つのレギュラーコーナーを展開中。あらゆるジャンルに興味を持つ趣味人間。特に収集欲、物欲が強い。広く浅い知識を誇るオタクになり切れないオタク。』とご本人。楽しいコラム間違いないです。

『リングの魔力』

第61回

2013.02.15更新

先日、あるキックボクシング大会のメインイベントの
リングに1人のファイターが上がりました。

その名は「南国超人」

彼は以前、本名の「岩下雅大」の名前でシュートボクシ
ングで活躍し、ヘビー級の日本ランキング2位まで登り
つめていました。

しかしその後突然の引退。



岩下選手を応援するキッカケになったのは、彼が喜界島
の出身であったことからでした。

テレビでシュートボクシング中継番組を何気なく観てい
たら、突然目に飛び込んできた、スパッツに書かれた
「喜界島」の文字。

それが岩下さんでした。

長身で筋肉質。ヘビー級でありながら中量級並みのスピ
ードを誇り、将来を嘱望されていました。


しかし、ある日の引退宣言。

本人曰く、「怖くなった」のだそうです。

彼は精力的に出稽古に出向き、ハードな練習の日々を
送っていたのですが、そんな中で、頭部にパンチを貰い
記憶を無くすことが増えてきたそうです。

「このまま続けたら自分の身体はどうなってしまうの
だろう?」
そんな不安にかられるのは当然のことと言えます。

「消防士になる」という新たな夢も見つかり、彼は
リングを降りる決断をしました。


消防士への道を順調に進み、結婚もして家庭を持ち、
第二の人生を順調に送っていた、そんな中、

またしても突然の、復活宣言。

名前を「南国超人」と変え、再びリングに上がることと
なったのでした。


こうして事実だけを並べると、人によっては優柔不断と
捉えてしまうかも知れません。

しかし、です。

「怖い」と言っていたリングに戻ってくるというのはど
ういうことか?しかも今度はさらに背負うものを増やして
帰ってくるわけです。

それがどういうことなのか?


長く格闘技を観ていると、こういった経緯は贔屓目を
抜きにしても理解できるものです。


プロレスも含めて、リングの世界では引退した選手が
現役復帰することは日常茶飯事です。

世界的に有名なのは、ボクシングを28歳で引退し、
何と45歳で復活したジョージ・フォアマン。

アマチュアスポーツでも、柔道などで一度一線を退いた
ものの、周囲からの要請で現役復帰するケースなど数多
くありますが、


プロレスということになると枚挙にいとまがなく、大仁田
厚に至っては何回引退しただろうか?という感じですし、

記憶に新しいところではJWP女子プロレスに所属して
いた米山香織が、引退試合を終え、試合後のセレモニー
で10カウントゴングが鳴らされている途中で

「やっぱり辞めたくない!」と言いだし、そのまま引退
を撤回してしまうという「事件」まで起こる始末で、

果たして「引退」とは何なのか?を考えさせられるとこ
ろでもありますが。


まず格闘技のケースとプロレスの場合とは分けて考えね
ばなりませんが、

おそらく共通してるであろうな、と思われるのは、
やはり「リングの魔力」ではないかのかな?ということ
です。


体力の限界で引退したケースは別として、それ以外の理
由でリングを降りたものの、身体がまだ動くのであれば
「もういちどリングに上がりたい」という欲望は、
ファイターならば誰もが持つようです。


自分はファイターではありませんので、あくまで憶測の
域を出ませんが、

観衆が見守る中、リングに上がりスポットライトを浴び
る、そして自分の全てを賭けた勝負の時間が目前に迫っ
ているというシチュエーションは、かなりの高揚感を
生むようです。

そしてリングで闘っている時間は間違いなく、ファイター
達は「主人公」です。

ましてや勝利を経験した者ならば、その味はなかなか
忘れられるものではないのでしょう。


格闘技における「引退」は、部外者が思うほど軽いもの
ではないと思うのです。

多かれ少なかれ、格闘技に身を投じている選手達は人生
を賭けています。
人生の時間の大部分を格闘技に費やして生きています。

その中で得られるもの、失うものの大きさは、想像を絶
します。

リングを降りるということは、それまでの生活の軸を取
り外すということであり、相当な決断が必要なはずです。

「そんななら辞めると言わないで休むと言えばいいのに」
という声も聞こえますが、ケガで止むを得ない場合を除き、
いつか帰ってくるつもりの、そんな軽いノリでリングを
離れる人が果たしてどれだけいるでしょうか?


それだけ「引退」というものは重いものなのです。


なので、復帰するというのもまた大きな決断が必要です。

周囲は受け入れてくれるのか?身体は動くのか?勝てる
のか?不安は尽きないと思います。

それでもやはり、リングに戻りたいという「気持ち」が
不安よりも勝ってしまう。

そんな魔力というか引力というか、そんな力がおそらく
リングには働いているのだと思います。


プロレスの場合は少し事情が違っていて、やはり職業と
しての側面が大きく影響しているように思います。

有名な選手になると、引退の際には「引退興行」を行い
ます。
その選手を観られる最後の機会とあって、通常よりも
チケットがよく売れます。

そうして引退した選手が復活するとなると、さすがに
問題が全く無いとは言えません。

しかしそれでも、大抵の場合は最終的に受け入れられて
います。

プロレスラーもまた、現役復帰する際には相当の覚悟を
持ってリングに上がります。そしてその意気込みはリン
グ上のファイトに表れます。


女子プロレスラーの場合は、特に「引退後の人生」を
考えなければなりません。その結果、若くしてリングを
降りる選手が多くいます。

女子プロレス大賞を2年連続受賞という快挙をなしとげた
愛川ゆず季選手が、その直後に引退を発表するという衝
撃的なニュースもありましたが、彼女もまたそんな一人
なのだろうと思います。


そんな中から、やはり「リングの魔力」に憑りつかれた
選手が再びリングを求めて戻ってきます。


腹をくくってリングを降り、腹をくくってリングに戻っ
てくる選手達に対して、他人がどうこう言う筋合いの
ことではないんだよな。と思うようになりました。
(ここまで長々と書いておいてなんですが。)


上記の大会で、岩下改め「南国超人」は見事KO勝利。
彼は今度こそ、燃え尽きるまで闘うことでしょう。


同時に彼らは「人生は諦めなければ終わらない」という
ことを教えてくれているのです。



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